我が国には約200万人のインスリン非依存性(NIDDM)糖尿病患者がおり、それは心臓病・脳卒中などの血管障害発症の重要な危険因子の一つとなっている。この糖尿病は遺伝性であり、インスリン依存性(小児型)糖尿病とは異なり、細胞のインスリンに対する応答に主な障害があると考えられているが、その病因は現在までのところ不明である。インスリンは細胞表面上にあるインスリンレセプタ-と結合することにより作用を発現するため、遺伝子因子としてまず第一にこのインスリンレセプタ-遺伝子の異常を考える必要がある。 我々は千葉大学第二内科牧野講師との共同研究により、母方インスリンレセプタ-遺伝子チロシンキナ-ゼドメインが欠失しているために糖尿病になった症例を発見した。現在数例のインスリンレセプタ-遺伝子異常症が発見されているが、NIDDMの中にはその遺伝因子としてレセプタ-遺伝子異常が存在する可能性がある。またNIDDMの患者は同時に膵からのインスリン分泌も低下している場合が多く、末梢細胞のインスリンに対する応答障害が主原因で、インスリン分泌低下は2次的に起こってくるものなのか議論のあるところであった。そこで、チロシンキナ-ゼ活性のない異常レセプタ-をマウスで発現させ、膵からのインスリン分泌がどうなるのか、血管障害がどのように起こってくるのかを明らかにする。メタロチオネインプロモ-タ-支配下にチロシンキナ-ゼ活性のないインスリンレセプタ-(ATP結合部位である1030番目のリジンをメチオニンにかえたもの)を組み換えたcDNAを作製し、現在トランスジェニックマウスを行っている。
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