研究概要 |
哺乳動物のリボソ-ムDNA(rDNA)の生体レベルの発現調節様式としては、一部のrDNAクラスタ-の不活性化現象が知られているが、その機構や生物学的意義については謎とされている。本年度はマウスの2系統、BALB/cCrSLcとMOAとを用いた交配実験を行い、銀染色法によって各rDNAグラスタ-の銀染色度(転写活性度)を調べた。まず親の系統であるBLAB/cはin situハイブリダイゼ-ション法でrDNAクラスタ-の染色体分布を調べると、染色体12、15、16、18、19に存在したが、銀染色ではそのうち染色体15、18に高頻度の銀染色性がみられ、16は希に染色された。最大のクラスタ-である染色体12のものは銀染色性が殆ど無かった。もう一つの純系MOAではrDNAクラスタ-は9種の異なる染色体上にあり、銀染色ではそのうち15、16、17が高頻度に12、19が低頻度に銀染色陽性であった。F1では銀染色のパタ-ンは親のそれからだいたい期待されるものであった。すでにBALB/cにおいては各rDNAクラスタ-に特異的DNAマ-カ-(VrDNA)が知られているので(Hilgers,1987)、これを指標として、バッククロス個体にいてrDNAクラスタ-の分配状況をサザンブロット法で把握した。そして銀染色パタ-ンと比較すると、不活化していたBALBの染色体12、19上のrDNAクラスタ-も場合によって銀陽性頻度が高くなった個体も得られた。BALB/cの15、18、MOAの15、16、17を多く分配されたN2では、12、19の陽性率は低く、少なく分配された場合には逆に高かった。これらの事は、(1)銀染色性は可逆的に変化し、(2)活性化に際しクラスタ-間で階層のようなものが存在していることを示し、(3)細胞はある一定量の銀染色陽性のrDNAクラスタ-を必要とすることを示唆している。
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