すでに、伝達能の優れた日本産野生マウス由来のミトコンドリアDNA(mtDNA)の細胞間移入と置換の操作によって、mtDNAの“質的"変化(突然変異)が細胞の癌化を誘導したり、その発現に関与することはないことが、昨年度の研究で明らかになった。そこで今年度は、mtDNAやミトコンドリアRNA(mtRNA)の“量的"変化と発癌との関連の可能性を明らかにするため、日本産野生マウス由来のmtDNAをもつB10mtJ系統のマウス細胞を発癌剤処理して癌化させ、これに伴うmtRNAの量的変化を調べた。その結果、細胞の癌化とともにmtRNA量が1.5倍程度上昇することが認確された。又、この癌化した細胞のmtRNAを導入し、さらに導入したmtRNAで置換された正常細胞のmtRNAレベルは上昇しないことから、癌化に伴うmtRNA量の増加は、核DNAの遺伝子の突然変異が原因であることが判明した。そこで更に、エチジウムブロマイド(EB)処理によって入為的にmtRNAレベルを低下させた場合、癌化した細胞の性質がかわるかどうか、コロニ-形成能によって調べたところ、本質的な変化はみられなかった。従ってmtRNA量の増加が、直接、癌化に結びついてはいないと推察された。又、mtRNA合成をEB処理によって抑制した場合、ミトコンドリアから有効なfeedback signalが出て、核DNAに指令されている酸化的リン酸化に関与する複合体サブユニットのRNA合成が抑制されることはないこと、しかしこれら核支配のサブユニットは、mtRNAに指令されているサブユニットが存在しないと、複合体への集合又は内膜への取り込みが行なわれないこともあわせて明らかになった。本研究で得られた、mtRNA量の増加と癌化の関連性が普遍的なものかどうかを明確にすることが、今後の研究課題である。
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