高等植物の光化学系I複合体は10種類以上のサブユニットから成り立っている。植物細胞内での系Iの分子構築機構を解明するためには、まず系Iサブユニットの種類と分子種構成とを明らかにしておくことが必要である。タバコを材料として、系Iサブユニットの分子種構成を検討してきたところ、N-末端アミノ酸のブロックされた15kDaほどの系Iタンパク質群が見いだされた。そこで、このブロックされたタンパク質群の分子的性状を明らかにするために、以下のような解析をおこなった。 (1)N-末端のブロックされたタンパク質群の各々をendopeptidaseで切断し、得られたペプチド断片の部分アミノ酸配列を決定したところ、核コ-ドの系IサブユニッであるpsaEサブユニットのアミノ酸配列に高い類似性を示した。しかし、既知のpsaEサブユニットのN-末端はブロックされていない。 (2)前記の結果をうけて、psaEサブユニットをコ-ドしているcDNAをクロ-ニングして検討したところ、2種類の分子種が見いだされた。各々のcDNAのコ-ドするタンパク質は、それぞれ既知のpsaEサブユニットとN-末端のブロックされたサブユニットとに対応していた。両者は、アミノ酸配列では81%、塩基配列では77%のホモロジ-を示した。 以上の結果は、【○!1】光化学系IのpsaEサブユニットは核ゲノム上の重複遺伝子族によってコ-ドされており、【○!2】psaEサブユニットには成熟型タンパク質のN-末端が修飾される分子種とされない分子種とがある、ことを示している。光化学系サブユニットに関する限り、今回見いだされたような重複遺伝子族に由来する多形性は他では知られていない。psaEサブユニットが持つこのような多形性が系Iの機構調節に係わっているかどうかは、今後に残された重要な研究課題である。
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