障害児のコミュニケ-ション行動にかんする研究のひとつとして、知能の高いチンパ-ジ-を障害児のモデルとした実験的分析を試みている。チンパ-ジ-の知覚・認知の諸特性はヒトとほとんど変わらず、言語的コミュニケ-ションの乏しい点で、耳や口の不自由な障害児にきわめて近い存在である。 今年度の研究の進捗状況は、現在までのところ以下のとおりである。 1.コミュニケ-ション・ツ-ルとしての携帯用会話盤の製作:小型インテリジェントスイッチ(サン電業社)を主体とした新構想のもとに、従来に類例のない携帯用会話盤の製作をした。画期的なことは、それぞれの押しボタンが小さなビデオタ-ミナルのように多様なシンボルを表示できることだ。タイプライタ-のように位置とシンボルの関係が固定しない。同じ端末が、どんなシンボルでも、どんな位置にでも表示できる。したがって、携帯用の多目的な会話盤として最上のものといえる。 2.チンパンジ-の「言語」訓練。既存のキ-ボ-ド(会話盤)を使って、チンパンジ-に視覚性人工言語を教える試みがおこなわれている。約80語を習得しているメスのチンパンジ-(アイ13歳)に続いて、6-9歳の子どものチンパンジ-4頭を対象として、言語習得の基礎的な訓練がおこなわれている。 3.手話を第1言語とする聾唖者および手話に堪能な健常者の2人を教師として、手話によるチンパンジ-とのコミュニケ-ションの予備的研究をおこなった。被験者は6歳になるメスのチンパンジ-1頭。最初のコミュニケ-ションの成立において、音声の有無が重要な役割をもつことがあきらかになった。
|