YBa_2Cu_3O_<7-δ>のメスバウアスペクトルの解析結果はグル-プ毎に異なっており、それぞれが各自の解析結果を基に議論を進めている。解析に差が差じる原因は、いずれのグル-プも3〜5種類のスペクトルを合成して、測定で得られたスペクトルを再現するという方法をとっていることによる。この方法では、互いに接近していて重なり合っている吸収線の位置の決定に曖昧さが残ることは避けられない。我々は、まず、議論の基となるスペクトルの正しい同定が必要であると考えて、抜本的に異なる解析法で、4組の四極子ダブレット(D1-D4)の位置を曖昧さなしに決めることに成功した。以下にその方法を簡単にまとめる。着眼点は、YBa_2(Cu_<1-x>Fe_x)_3O_<7-δ>においては酸素欠損の割合(δ)によって4組の四極子タブレットの強度比が変化することである。本課題では、金属イオンの移動を伴わない、真空中300℃の熱処理で酸素欠損を生じさせた。この処理によって、四極子分裂の大きさは変化せず、4組のタブレットの強度比のみが変化する。そこで、熱処理前後のスペクトルを比較して、以下の方法によりタブレットの位置を決める。まず、一組のダブレットを消去するように片方のスペクトルに適当な係数を掛けて、両者の差引のスペクトルをつくる。この操作で、重畳していた一部の吸収線の位置が正確に決められる。次に、差引で得られたスペクトルに適当な係数を掛けて、同様の操作を繰り返すことにより、強度の弱い吸収線の位置も正確に決めつけることができる。以上の解析により、D3及びD4ダブレットについては、これまでに報告されていた値は修正されるべきであることが明らかになった。本研究課題で用いた解析法は、一般に、複数の吸収線が重畳している複雑なスペクトルの解析において、熱処理その他の方法でスペクトル線の強度化のみを変えることができる場合に有用であると考えられる。
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