本研究における最終目標は膜形成仮定における反応性プラズマ中のクライスタ-イオンの動的過程を分子論的立場から明らかにすることにある。そのために本研究では、クラスタ-イオンはパルスレ-ザ-光を用いたレ-ザ-スパッタ法により発生させ、高真空中にビ-ムとして取り出し、さらにパルスゲ-ト法により特定粒子数の負イオンクラスタ-だけを分離し、固体表面に衡突させる。したがって反応性化学種としてのクラスタ-イオンの粒子数制抑はもちろんのこと、運動エネルギ-の制抑、クラスタ-内部温度の制抑が可能であり、固体表面との相互作用をきわめて精密に追跡することを可能にした。 本年度は上記課題を遂行するために、超高真空下で半導体負イオンクラスタ-ビ-ムを発生させる装置を開発するとともに、パルスゲ-ト法の開発も合せて行なった。超高真空下でのビ-ム発生のためには、冷却ガスを用いないクラスタ-ビ-ム源の開発に成功し、炭系負イオンクラスタ-、ケイ系負イオンクラスタ-を比較的高濃度で発生することができた。さらに特殊な高圧バルス電源を購入し、パルスゲ-ト法を開発した。この方法では通常-IKVの高電圧が発生しており、特定粒子数クラスタ-が飛行するときだけ、パルス的にゲ-トが開く(グランドポテンシャル)ようになっている。炭系負イオンクラスタ-を用いて、性能を調べたところ、完全に単一粒子数のものだけが通過することが明らかになった。さらに上記の方法で粒子数分別した炭系負イオンクラスタ-をMoS_2単結晶に衡突させ、衡突脱離で発生する電子を検出することにより、衡突脱離の粒子数依存性を見い出した。この事実はこれまで全く報告されていない事柄であり、この現象を通して、クラスタ-と固体表面相互作用に新しい手法が生まれる可能性を示している。
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