C.elegansの増殖を阻害する薬剤や条件を探索した結果、以下のことが判明した。フッ化ナトリウムは、3mMの濃度で幼虫の成長を遅らせ、10mMでは受精卵以外のあらゆる成長段階の虫の成長を止め、死に至らせる。低温(4℃)に放置すると、あらゆる成長段階の虫が徐々に死ぬ。卵から生まれたての幼虫を用いた実験では、4日で半数が、10日で99.9%以上が死滅する。8-アザグアニンは、200μg/m1の濃度あると、卵がふ化しなくなる。その他、調べた内では、10mM塩化マンガン、10μg/m1K-252aが著しい成長阻害効果があったが、他の多くの薬剤は顕著な効き目がなかった。 上述の諸条件に耐性の変異株を分離したが、この中ではフッ素イオン耐性変異株が、安定した性質を持っていたので、以後の研究は、これに集中して行った。マッピングと表現型の調査により、フッ素イオン耐性変異は、以下の3種類あることがわかった。a)flr-1変異。X染色体上、unc-9より0.4単位右にある。10mMNaFにも耐性。他の表現型として、成長が遅く(世代時間、野生株の3日に対し6日)、体が小さく(野生株の7割)、細い。産卵数が少ない(野生株の300に対し50〜150)。a)flr-2変異。第V染色体上、unc-76付近(1単位以内)にある。10mMNaFに感受性だが、3mMでの成長の遅れが小さい。成長速度と産卵数は、野生株よりわずかに少ない。体が2割短いが、太さは野生株とほぼ同じ。c)flr-3変異。第IV染色体上、dpy-9付近(1単位以内)にある。表現型は、flr-1とほとんど同じ。flr-1変異株とflr-3変異株は、それぞれmut-6およびmut-5変異株より変異誘起剤なしに得られたものもある。これらはTc1(トランスポゾン)挿入変異である可能性が強い。
|