本研究は、外来DNAがY染色体に挿入されたトランスジェニック(Tg)マウスを用いて、哺乳類における性決定機構に関与する要因を解析するものである。BALB/C同士およびTgマウスとC57BL/6マウスとの交配によって得た8細胞期胚を元に、胚集合法によってキメラマウスの作製を行なった。その結果、8匹のキメラマウスが得られ、表現型から判定して雌5匹、雄3匹であった。色素にキメリズムが認められる尾部の一部を切除し、DNAを描出した。ドットブロット法によってDNAを解析したところ、雄3匹については全て、Tgマウス由来の細胞を保有し、また、雌5匹については全て、Tgマウス由来の細胞を保有していなかった。今回のキメラ作製では、目的とする異性間キメラマウスは得られなかった。一方、このTgマウスの精子を用いて、パ-コ-ル密度匂配遠心分離法により、X・Y精子の分離を試み、その結果を、DNA-DNAハイブリダイゼ-ション法によって評価した。7段階(35-84%)から成るパ-コ-ル密度匂配に、精巣上体より採取した精子浮遊液を重層し、300gで、10分、15分および20分間それぞれ遠心した。遠心後、各分画中の精子を回収・洗滌し、精子DNAを抽出した。得られたDNAをニトロセルロ-スフィルタ-上にドット・固定したのち、^<32>P標識DNAプロ-ブとハイブリダイズさせた。各DNAドット部位を切り取り、シンチレ-タ-に投入して放射能を測定した。その結果、遠心分離条件の違いにかかわらず、各DNAドット間および対照(非分離精子)との間には、測定値に差異がなく、各精子分画におけるX精子とY精子との比率がほぼ等しかったことが認められた。本実験の結果から、精巣上体尾部精子を用いる限り、比重差によるX・Y精子の分離は困難であることが示された。
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