細胞膜透過性を高めた血小板を用い、カルシウム刺激に応答しておこる顆粒分泌に伴う細胞内構造の変化を、超薄切片法による電子顕微鏡観察により調べた。その結果、未刺激細胞では分泌顆粒の約40%が細胞膜のごく近傍(平均約10nm)に存在していること、分泌刺激により細胞膜近傍の顆粒が分泌による顆粒の減少に見合うだけ選択的に減少していることを見い出した。細胞膜近傍に存在する顆粒が選択的に分泌されるという可能性は、膜近傍に存在する顆粒の割合と最大分泌量(%)が無傷および膜透過性を高めた血小板で一致することから支持された。さらに細胞膜と顆粒を結ぶ構造を詳細に調べると、カルシウム刺激以前にはフィラメント様でない不定形の構造物が膜と顆粒の間に存在しており、刺激によりこの不定形構造が規則的な間隔を示す橋状の構造に変化することを見いだした。他方、細胞内マイクロフィラメントは分泌刺激の前後で大きく変化していなかった。これらの結果に基づいて、顆粒分泌の新しいモデル、即ち分泌される顆粒はすでに細胞膜の近傍に存在しており、両者を結ぶ不定形構造物がカルシウム刺激により構造変化することで分泌が起こる、を提唱している。このモデルで最も重要な点である細胞膜と顆粒を結ぶ構造については現在免疫電顕の手法を用いて検討している。また分泌にはATPが必要であるが、ATPは顆粒を細胞膜近傍に保持するために必要である可能性がある。即ち、ATPのない条件で固定した標品では膜近傍に存在する顆粒数が著しく減少していた。今後顆粒と細胞膜の間に存在する物質を同定することにより、カルシウムの標的タンパク質およびATPの役割を明らかにしたい。
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