今年度は人類集団の消長に関する基礎的な検討を行なうため、人口拡散についての骨格モデルを構築し、個々の人間を最小の構成要素とするマイクロシミュレーションを実行した。このシミュレーションは以下の三つのステップから成る。すなわち、1)単一小集団(50ー200人)の各人の運命を、設定された出生及び死亡確率に従って各年ごとに決定していく。なお出生・死亡確率は、人口支持力のレベルにより変化させる。2)1)のモデルを各集団ごとに一次元上に隣接させ、集団サイズと人口支持力により決定される移動状況を把握する。3)2)のモデルを二次元上に拡張する。そして2)と3)のモデルから、個々の集団の人口増減及び移住の頻度分布を決める。具体的にはまず人口支持力が(1)50人(2)100人(3)200人かつ、年初人口が人口支持力レベル順に45人、90人、180人である小集団を考える。出生確率を人口支持力の80%未満の時を1.05、80〜100%を1.0、100%を0.90とした時の20.000年間における人口増減の推移を観察した。人口増減の程度を変動係数で示すと(1)4.1、(2)3.1、(3)2.1となり、これから人口支持力が大きくなるほど人口サイズの変動係数は小さくなることが判明した。移住の頻度分布については、上記と同様の仮想小集団がそれぞれ8集落隣接している状況を想定し、人口拡散の速度についてシミュレーション分析を行なった。この場合、それぞれの集団サイズが人口支持力90%以上になり、かつ隣接集団に人口支持力からみた収容力の余力が40%以上あった場合のみおよそ20%の人口が確率的に移住すると仮定する。8集落の一端から他端に到達する平均時間(年)を100回の試行結果から観察すると、(1)1872年(2)2416年(3)2752年となり人口支持力が大きいほど平均到達時間が長いことが判明した。しかし100回の試行のなかで集団が消滅する(人口数ゼロ)例は、(1)33回(2)16回(3)0回と人口支持力の小さい集団の不安定さが実証された。
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