1.標準海水(IAEA-SMOW)の酸素同意体比を骨と同一の分析方法で分析した。これによって、測定値を直接的に世界の酸素同位体比の標準(骨の場合も、海水が標準である)と比較して、表示することを可能にした。 2.飲料水となる河川水・地下水の酸素同位体比は、沖縄の河川水から北海道有珠の地下水まで低緯度から高緯度に向けて減少する一般的な傾向が見られた。西サモアの地下水は予想より低い酸素同位体比を示した。 3.人骨・鯨骨の酸素同位体比の部位(頭骨、胸骨、脊椎、指骨、歯など)による変動は、同一個体内では測定精度の範囲内にあった。どの部位の骨を分析しても、その個体を代表する値が得られることが明らかになった。 4.環境水とモンゴロイドの骨の酸素同位体比の間には次のような良い相関が得られた。 δ^<18>O(骨)=0.72δ^<18>O(水)+21.3(〓)(相関係数r^2=0.95) 5.環境水と試料骨の関係の変動は、次のように解釈される。(1)北黄金縄文人は縄文海進時で、気候が温暖であったことを反映して、現代より同位体比の高い水を飲用していたと考えられる。(2)古作縄文人は利根川水系でなく、東の低山地を水源とする(同位体比の高い)河川水を飲用していたと考えられる。(3)現代人は、かなり遠隔地を水域とする水道水を飲用している。関東では、内陸の山地を水源とする(同位体比の低い)水系の水を飲用している。さらに清涼飲料水・加工食品などの影響を受けている。(4)欧米人とモンゴロイドの食性の相違が骨と環境水の相関の相違に反映している可能性があり、今後検討すべき課題である。 6.来年度は、(1)北海道・東北・西南日本の測定数を増やす(2)西サモア現代人の歯など国外の試料を測定し、4の相関直線をさらに確実にし、北米・南米などの試料に適用して、モンゴロイドの移住・拡散を解析する。
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