酸化物超伝導体の実用化を考える場合、超伝導臨界電流値Jc、臨界磁場Hcなどに直接影響する、結晶粒の大きさ、結晶粒界の性質、結晶粒相互の結晶学的方位などの制御が、大きな問題として浮かび上がってくる。ビスマス系の(2212)相について、構成元素の種類や組成を変化させ、単一相の出現条件、格子定数の組成依存性、超伝導遷移温度Tcの組成依存性、について測定した。CaサイトおよびSrサイト(いずれも2価イオン)を3価のイオンであるNdで置換した場合、(2212)相の単相構造を保ったまま置換が起こることがX線回折により明らかとなった。置換量とともに格子定数aは単調増加し、cは単調減少していく。CaサイトとSrサイトの置換では、格子定数の変化の割合が異なる。置換量が化学式において0.1まではTcは80Kから直線的に上昇し、0.1〜0.25の置換量に対してTcは最高の値、約90Kを保つ。それ以上の置換を行なうとTcは逆に直線的に減少し、0.6以上の置換では超伝導は消失する。置換量に対するTcの変化はCa、Srいずれのサイトの置換についても全く同様であった。分析によれば、酸素量は置換量によらず約8.3で一定である。これらの実験結果から、(2212)相は元々ホ-ル過剰の系であり、ホ-ル濃度を少し減らして最適化することによつてTcが高くなるものと考えられる。このことは、クエンチ処理より酸素量を減少させた系に対する結果からも示される。CaをNdで置換した系を800℃から液体窒素温度まで急冷すると、結晶構造は変化せず、炉冷した系に対する結果と比較してNd組成にして0.1だけ置換量を増加させたことに対応するTcの組成依存性が観測された。クエンチすることにより酸素量は化学組成にして約0.05だけ減少しており、超伝導遷移温度と[Cu-O]のホ-ル濃度との間に普遍的な関係が成り立つことが確認された。
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