我々は研究課題として、Tl系を選択したが、防毒設備拠入の遅れ等の為、本年度は、同程度の超伝導転移温度を持つBi-Sr-Ca-Cu-O系を中心に有機酸塩熱分解法により、高温超伝導膜及びファイバ-の作製を試みた。有機酸塩熱分解法は、真空装置等高価な装置が不必要で、極めて簡便な方法であるが、従来、Tc(end)が100kを超えるBi系単相に近い膜は得られておらず、又、その得られた膜表面も平滑ではなかった。そこで我々は、スピンコ-ト法と膜と同組成のバルクペレットを焼成中に膜上に置くことにより、それらの問題点が解決されることを初めて明らかにした。つまり、それらの手法を用いることにより、有機酸塩熱分解法を用いて、Bi系の高温相単相に近く、Tc(end)が100kを超える平滑な膜を得ることに成功した。そして、更には膜厚1μm程度の薄膜をそれらの特性を損なうことなく得ることもできた。これらは従来、全く不可能であったことである。一方、有機酸塩の原料溶液は粘稠で、室温、空気中でガラス棒により簡単にファイバ-を引くことができる。しかし、それにも拘らず、その原料溶液が蒸発成分を多量に含有する為、焼成後まで、ファイバ-の形状を保持することが難しく、従来この手法で超伝導ファイバ-の作製に成功した例はなかった。我々は、そこで、有機酸塩の原料溶液に、固相焼結させた超伝導酸化物粉末を、混入し、蒸発成分の割合を減らした。更に、焼成中ファイバ-の形状を保たせる為に、ハイドロキシプロピルセルロ-スにより表面をコ-ティングし、つるしたまま行った。その結果、焼成後もファイバ-の形状を保持させることに成功した。得られたファイバ-の電気伝導特性とひっぱり強度を測定したところ、Tc(end)が60k程度、そして強度が7.5MPaの値を得た。これらの値は、有機酸熱分解法或いは類似の手法により得られたファイバ-の中で最も優れた値の一つと言える。
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