筆者らは、環状オリゴ糖であるシクロデキストリンの一級水酸基をピリジニオ基で置換したホスト化合物が、水溶液中において特定の無機アニオンと極めて安定な電荷移動錯体を形成することを見出した。 本研究では(1)無機アニオン認識ホストを分子設計する上での基本戦略として電荷移動相互作用を用いた場合の可能性を評価するため、ピリジニオ基に各種の置換基を導入し、無機アニオンとの結合力に及ぼす置換基効果を解析するとともに、(2)この系を有機溶媒系へ拡張するための化学修飾と、その中での錯形成能を調べることを目的とする。 1)ホストのピリジニオ基のオルト、メタ、パラ位に電子供与性のメチル基あるいは電子吸引性のカルバモイル基を導入した化合物を合成した。水溶液中においてこれらのホストはヨウ化物イオンと電荷移動錯体を形成し、特有のUV吸収を与えた。しかし電荷移動錯体の安定度定数は置換基の影響をほとんど受けなかった。極性の大きな水が溶媒の場合には、錯体の安定化に及ぼす電荷移動相互作用の寄与は少ないものと思われる。 2)上で合成したホストの未修飾水酸基の全てをベンゾイル化した化合物を合成した。これらのホストは水には溶けないが、クロロホルムには良く溶けた。クロロホルム中でヨウ化物イオンと電荷移動錯体を形成し、特有のUV吸収を与えた。その電荷移動錯体の安定度定数は極めて大きく、また置換基の影響を強く受けた。極性の小さなクロロホルムが溶媒の場合には、錯体の安定化に及ぼす電荷移動相互作用の寄与は大きいものと思われる。
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