研究概要 |
我々が最近開発した超原子価硫黄化合物、10π電子系テトラキス(アルキルチオ)チエノ[3,4-c]チオフェン(1)および12π電子系テトラアザペンタレン誘導体(2)について、その反応性を調べると共に有用な新規物質への変換反応を検討した。その結果、1)化合物1(R=Bu^t)とトルフルオロ酢酸との反応では、1位のプロトン化、つづいてBu^t-S結合の切断を経て、チエノ[3,4-c]チオフェン-1-チオン誘導体(3)が生成すること、またこの誘導体3をNaH、ついでRIで処理すると、チエノ[3,4-c]チオフェン環が復元することを見出し、新しい置換基変換法を確立した。2)化合物1(R=Pr^i)と求電子試薬Me_2N^+=CHCIとの反応では、求電子試薬の付加とRS基の脱離が起こり、反応後、水で処理すると、モノおよびジホルミル置換体が生成することを見出した。3)1(R=Bu^t)と5倍モル量のヨウ素との反応は、-30℃で1:I_2=1:2.5の組成比の黒緑色錯体を与えること、しかし、この錯体は塩化メチレン中室温で定量的にトリチオアンヒドリドに変化し、ヨウ素によるチエノ[3,4-c]チオフェン環の酸化が起こることを明らかにした。4)化合物2(R=Me)とω-ハロゲノアルキルイソチオシアナ-トとの反応は、付加、脱離、S-アルキル化を経て新規メチレン鎖縮合環系テトラアザペンタレン誘導体を、また2(R=Et)とp-キシリレンジイソチオシアナ-トとの反応は、2個の-NCS基をもつテトラアザペンタレン誘導体を与えることを見出した。さらに、この誘導体の2個の-NCS基をジアミンと反応させ、包接能を有する新しい大環状超原子価硫黄化合物を合成した。5)化合物2(R=Me)はヨウ素やTCNQと安定な電荷移動錯体を形成すること、またその錯体は良好な暗電導性を示すことなどを明らかにした。
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