半導体表面上へ異種原子が吸着して薄膜へと成長する過程において、そのごく初期段階で現れる多様な原子構造変化の電子論的メカニズムを理解するために、吸着キセノン光電子分光によって最表面の局所原子構造をモニタ-しながら、準安定原子脱励起分光(MDS)によって半導体表面-金属原子間の結合に寄与する電子状態を追跡する。 本年度実施した研究内容は以下の通りである。 1.新しい原理(アルカリ金属原子との電荷移行衝突)に基づくヘリウム準安定原子ビ-ム源の試作。 2.吸着キセノン光電子分光のための真空紫外光源の製作。 3.現有の準安定原子脱励起分光装置を用いて、アルカリ金属吸着Si表面最外層の局所電子状態の抽出を行った。その結果、 (1)Si(100)表面へのK吸着過程に対して、得たMDSスペクトルから、金属吸着子の真空側沖合における局所電子状態密度が、金属吸着被覆度に依存して変化すること。また、飽和吸着に近づくに従い、吸着層の凝縮に伴って電子状態が金属的なものへ移行することを直接示した。 (2)次に、この様にして形成された金属吸着表面が他の原子・分子に対していかに活発な働きかけをするかを、K及びCs吸着Si(100)表面の酸素取り込み過程に対するMDSスペクトルで実証した。即ち、ごく微量の酸素露出によってK4S^^〜或いはC_S6S^^〜強度が急激に減少することから、吸着金属原子の価原子軌道から電子が完全に流出することが判明した。分子の解離・吸着を促進させる金属吸着子の役割は、この局所的な(下地を介してではない)電荷移行にあることを確めた。
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