真核生物では、遺伝情報発現における転写と翻訳の場所と時間が異なることから、翻訳制御の重要性が増大する。翻訳制御に関し、ペプチド鎖伸長反応の制御系は不明であったが、筆者は最近、この反応に関与するカイコの伸長因子EF-1(αββ'γ)が、リン酸化により活性型となり、脱リン酸化により不活性型となることを明らかにするとともに、高分子量体F-1(>600K)に結合しているRNA(EF-1RNA)を発見した。本研究は、このRNAの構造と機能を明らかにすることを目的とし、以下の結果を得た。1.EF-1RNAは従来、高分子量体EF-1から調製していたが、HPLCゲル濾過等により、細胞質から同RNAを収率よく調製する方法を確立した。2.この方法により調製したRNAも、EF-1から調製したRNAと同様にEF-1(160K)を高分子量化した。3.EF-1RNAは、EF-1の4種類のサブユニットαββ'γのうち、αサブユニットにのみ結合した。4.EF-1RNAは、コムギ胚芽無細胞系でのタンパク質合成を阻害した。5.EF-1RNAは、EF-1のβサブユニットをリン酸化するβ-kinase活性を阻害した。6.EF-1RNAによるβのリン酸化及びタンパク合成阻害の速度論的解析等から、同RNAにより、βのリン酸化が阻害され、EF-1α・GDPと外部のGTPとの交換反応を触媒するEF-1ββ'γが不活性化され、タンパク合成が阻害されるものと推定した。7.EF-1RNAは、DNA及びRNA合成が盛んなカイコ5令3-4日に多く、フィブロイン合成の盛んな5-7日には減少するので、フィブロイン生合成の制御に関与するものと推定した。8.EF-1RNAの構造は現在解析中である。
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