研究概要 |
ミオシン頭部(S-1)の20K、23K、50Kの各ドメインを、5-ヨ-ドアセトアミドフルオレッセイン、4-フルオロー7-ニトロベンズー2ーオキサー1,3-ジアゾ-ル、9-アントロイルニトリルで特異的に螢光標識したS-1誘導体(各々AF-S-1、NBD-S-1、AN-S-1)を調製した。これらの標識Sー1にATP等のヌクレオチドが結合すると、標識されている螢光団の螢光強度は減少した。螢光変化の大きさは、AN-S-1>AF-S-1>NBD-S-1の順であった。特にAN-S-1の螢光変化は非常に大きく、これを利用してATPase反応に伴って起こる23Kドメインの構造変化を実時間で追跡することができた。一方、ミオシンに無機リン酸の構造類縁体であるオルトバナジン酸(Vi)をADPと共に加えると非常に安定な三元複合体が生成することが知られている。三種類の螢光標識S-1も総てADP・Viと三元複合体を形成し、複合体の生成に伴ってその螢光強度が変化した。この場合も螢光変化の大きさはAN-S-1>AF-S-1>NBD-S-1の順であった。三元複合体生成の速度定数は三種類の標識S-1で大きな差はなく、0.03〜0.05s^<-1>であった。他方アクチンが結合した時の螢光変化はAF-S-1でしか検出されなかった。 以上の結果からミオシンのATP結合部位は三つのドメインが近接している領域の23Kドメイン上にあり、ATP結合により起こる構造変化の“信号"はこの領域を介して各ドメインに伝えられることが示唆された。逆にアクチン結合部位で起こる構造変化は、今回の研究では20Kドメイン上でしか検出できなかったので、アクチン結合部位からATP結合部位への“信号"の伝わるル-トは、ATP結合部位からアクチン結合部位への“信号"が伝わるル-トとは別にあると思われる。
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