骨格筋の収縮にともなうATP分解量を測定することで、エネルギ-の面から滑り運動の機能単位をとらえることを試みた。エネルギ-入力と仕事出力の関係を変調できる筋肉の性質から、エネルギ-の最小単位を見つけることは、逆にATP1分子で生理的に滑ることのできる最大距離を求めることに相当すると考えた。 本研究では、クルマエビ(Panaeus japonicus)の腹部屈筋を材料として用いた。取り出したクルマエビ筋原線維の収縮は比較的遅く、位相差顕微鏡を通常のビデオ(30フレ-ム/sec)で観察し、各フレ-ムごとの筋節長を測定することで収縮速度を求めることができる。また、筋原線維のATP加水分解活性は、リン酸の増加を発色により測定する方法を用いた。クルマエビ筋原線維の収縮速度は、脊椎動物の場合と同様、カルシウム濃度に大きく依存したが、その依存性は、ウサギ骨格筋のものとは大きく異なっていた。弛緩状態では全く収縮しないが、pCa=5.5を越えると急に収縮を起こした。しかし、ウサギの場合この値を越えるとそれ以上カルシウム濃度を上げても収縮速度は一定であるのに対し、クルマエビの場合は、カルシウム濃度上昇にともなって収縮速度も上昇した。また、このとき、同じ条件で測定したATP加水分解活性は、カルシウムイオン濃度を変化させても急激に変化する領域はなかった。これらの性質は、イオン強度を上げても変わらなかった。筋原線維の収縮速度自身が遅いことや、収縮速度のカルシウム濃度依存性の特異性は、筋原線維に含まれる並列弾性要素による可能性もあると考えている。
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