研究概要 |
本研究は光加熱方式acカロリメトリを用いた極微量物質の熱物性値測定装置の開発を目的としている。その一つとして極微少量液体の比熱測定法の確立がある。約1μlの液体試料をステンレス鋼製チュ-ブ(内径約130μm、外径約170μm、長さ3cm)に詰め、外からチョップした光を照射して、比熱測定を行う方式である。微少量の液体試料での測定が期待されている生体物質において試みた。ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)・コレステロ-ル系においてコレステロ-ル濃度の少ない領域において、この系の主転移温度近傍における比熱の微妙な変化の測定を行った。コレステロ-ル濃度1,2,3,4,5mol%と増すにしたがって、純粋なDPPCで現われる主転移での比熱異常は小さくなり、それに引き替え主転移より約0.4℃に新しい異常が出現し、コレステロ-ル濃度をさらに上げるとさらに約0.2℃下に次の異常が出現することがわかった。また、この測定から微少量液体中に分散した物質の比熱測定では、比熱がその物質の状態によることがあるのでまずその物質の大きさ形状などを評価しておくことが必要であることがわかった。一方:光加熱方式acカロリメトリは薄膜材料の熱拡散率測定へも応用できるが、この応用範囲が益々広げられ、この方法は薄膜材料の熱物性評価法として一般性のある有用な方法であることがわかってきた。本年度は、とくに熱拡散率の小さいポリマ-のような物質とそれとは反対に大きい銅のような物質の測定における問題点を検討し、それらに対して、どのように対処すればよいかを明らかにした。通常acカロリメトリ-は気体雰囲気下で行われるが、熱拡散率の小さな薄膜の場合、薄膜面に沿って存在する気体を介しての熱の伝播が問題となり、最早気体雰囲気下で測定することはできなくなることがわかった。熱拡散率が大きい薄膜の場合、短冊状試料の端における交流温度波の反射が問題となる。このような試料の測定において試料の長さに関する条件を明確に示した。
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