研究概要 |
血液ポンプでは,ポンプの力学的性能のみならず血液の溶血(血液の損傷)と擬固が問題となる。とくに遠心血液ポンプでは羽根の高速回転のため溶血が起りやすく,この溶血の少ないポンプの開発が重要である。実際の血液を使って溶血試験を行うと,そのデ-タにはバラツキが多く,溶血の主要因であるはずの力学的要因と溶血との対応は容易ではない。これは,血液が接触する材料表面上の複雑な生体吸着反応が関与しているからである。そこで,血液の血球の代りに,力学的性質が血球に類似したマイクロカプセルを開発し,純粋に力学的要因のみによるカプセルの損傷から溶血の模擬試験を行い,溶血の少ないポンプの開発とその評価に役立てようとするものである。得られた成果はつぎの通りである。 1.マイクロカプセル溶液(富士写真フィルム社製造)を赤血球とみなして模擬溶血試験を行う方法を確立した。つまり,マイクロカプセル中のロイコ染料が殻膜の損傷によって油滴となってカプセル外に遊離する。このサンプル液にシリコン油を加へ油滴中の色素をこのシリコン油中に抽出し,これを感色紙上に滴下して,その濃度からマイクロカプセルの損傷の程度を求める。これは血液において遊離ヘモグロビンの測定から溶血の程度を知ることに相当している。 2.歳差式遠心血液ポンプ,二重回転コ-ンおよび密閉歳差式ポンプに対し模擬溶血試験を行い,カプセルの損傷が剪断応力と時間の積の指数関数で表わされることを見出した。また,回転数が3500rpm以下では損傷量がすべて剪断応力と時間の積のみに依存するが,当ポンプの場合3500rpmを境としてこれ以上では損傷が著しく増加することがわかった。また,この結果は生体血でも全く同様であることがわかった。 3.現在のカプセルの強度は赤血球の数倍の強度を有するので試験時間が長くなるが,試験時間を短かくするための低強度のカプセルを期待する。
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