本研究はカオスの情報通信系への応用を目的とし、拡散スペクトル通信系への応用をめざして開始され、暗号系への応用や、さらには生体情報処理系への適用へと発展していく展開をみせている。現在までに得られた主たる研究成果の要約は以下のようである。 1.カオスの呈する区間力学系によって生成される疑似乱数系列の拡散符号としての適合性を検討するために、TentーmapとCutーmapを対象として相関特性の計算機実験を行い、良好な自己相関特性が得られること、広いパラメ-タ領域で良好な相互相関特性が得られること、そしてこの良好な特性は多重化された系列に対しても保たれることを明らかにした。また、1:2の区間力学系と異なり1:1である2次元離散力学系を用いると、相関特性はより拡散符号として都合のよいものになることを明らかにした。 2.情報秘匿と関連して、カオスを呈する区間力学系をを用いた暗号系を提案した。これはパラメ-タを鍵、像を平文、逆像を暗号文をするものであり、従来に比べ、解読が非常に困難な系である。そして、これを基本として拡大縮小両要素を含む1:1の2次元力学系を用いた暗号系を開発した。この系は拡大的要素により暗号文の分布がより均一となり、縮小的要素により暗号文の必要桁数が減少し、情報効率が0.51に改善出来ることが明らかとなった。 3.2次元離散力学系の実装と深く関係した4次元自律系カオス発生回路として、非線形素子がヒステリシス抵抗のみの回路に着目し、アトラクタの存在、カオスの発生、分岐現象等に関する基礎理論を確立した。また、将来の人工生体情報処理系への応用を念頭におき、人工神設セルを設計し、これが実際の神経に見られるようなカオスおよびフラクタル応答を呈することを明らかとした。
|