電子の反物質である陽電子を利用した測定法は半導体分野や新素材開発の研究手段として陽電子測定を専門としていない研究者から注目をされ、結晶欠陥や電子密度分布測定法として一般的な測定手段となりつつある。なかでも寿命測定法は、結晶欠陥の非破壊検査法として非常に優れた方法である。陽電子は ^<22>Naのβ^+核崩壊によって試料中に打ち込まれ、同時に1.28MeVのγ線が発生する。打ち込まれた陽電子は結晶欠陥に敏感に捕獲され、欠陥中で電子と対消滅して0.511MeVのγ線となり、消滅確率は欠陥中の電子濃度に比例する。陽電子発生時の1.28MeVγ線と0.511MeVγ線の時間差を計測すれば欠陥の電子密度と量がそれぞれ消滅寿命、強度として測定できる。しかしこの時間差は分解能として200p秒を要求するため、計測システムは最先端のエレクトロニクス技術を要求する。また発生するγ線は全立体角に等確率で放出されるため、検出器を試料にできるかぎり接近させて設置する必要がある。このため小型で時間分解能の短い検出器の開発が必要である。 本研究では放射線検出用シンチレ-タとしてBaF_2、光電子増倍管として浜松ホトニクス社のR1893を使用し直径15mmの小型の検出器を試作開発した。この検出器を使用して0.511MeVのγ線を測定したとき光電子増倍管のアノ-ドより、立ち上がり時間0.8n秒、波高250mVの出力が得られた。時間分解能では半値幅210p秒であり、従来のRCA社C31024を使用した時とほぼ同等の性能が得られた。この検出器は従来の1/3程度の直径で高温測定や極低温測定に威力を発揮するものと考える。
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