本試験研究で意図するセンサシステムの開発研究に関して、本年度は、センサシステムの基礎となるセンサ作動原理を中心に検討した。 はじめに、電気化学センサシステムでは、化学物質の種類や濃度といった化学的な情報は適当な電気信号に変換されなければならない。したがって、このような目的のための化学的な原理の確立は、既存の手法を組み合わせたシステム化に増して重要な課題といえる。我々は、このような情報変換の原理として、新たに化学修飾電極の交流電気化学特性に着目した手法を提唱した。具体的には、電極表面に固定化した機能物質がゲストとなる物質と相互作用するとき、表面の誘電特性が変化するという作業仮説のもとに検討し、我々の着想を支持する結果を得た。また、気体センサ系への応用として湿度センサに適用し、良好な結果を得た。 一方、より高い次元の機能を有する感応物質の開発は、センサシステムの高性能化に欠かすことのできない要素である。このような側面からのアプロ-チとして、合成二分子膜の利用について検討した。合成二分子膜は、生体系の細胞膜と類似した構造の組織体を成形し、また、その物理化学的性質をきわめて類似している。このような点で、生体系類似のセンサシステムを構築するうえできわめて魅力的な素材である。合成二分子膜のもっとも基礎的な性質に、結晶相から液晶相への相転移現象があるが、我々の提唱した交流法では、この転移現象をきわめて鋭敏に検知することが可能であった。このような知見は、膜内にド-プした機能分子が行う相互作用と、膜の相転移現象という二つの過程を組み合わせた計測法の可能性を示唆する。生体系における化学感覚の機構と密接に関連した。バイオミメティックなセンサシステムの実現という観点から期待される成果である。
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