カルボニル化合物に対するシアン化水素の不斉付加反応における触媒として、二種類のアミノ酸、フェニルアラニンとヒスチジンからなる環状ジペプチド、シクロ(L-フェニルアラニル-L-ヒスチジル)を用い、反応条件の検討を詳細に行った。その結果、トルエンを溶媒として用い、-20℃で8時間反応を行うと、収率97%、不斉収率97%という酵素反応に匹敵する高い効率でシアノヒドリンが得られた。このことにより人工酵素の有用性が示された。また触媒の活性が、その精製方法に大きく依存することが見出された。すなわち、精製の際、水を用いない系からは高活性の触媒が得られるということである。実際、メタノ-ルから再結晶、又はメタノ-ル溶液をエ-テル中に再沈することにより得られた触媒は高活性であることが明らかとなった。また触媒の活性の予測はX線回折パタ-ンを測定することにより可能となった。すなわち、X線回折パタ-ンが非常にブロ-ドな形で得られる場合に高活性な触媒となる。また、触媒の構造と活性の比較という点から、種々の環状ジペプチドを合成し、比較、検討を行ったところ、ロイシンとヒスチジンからなるシクロ(L-ロイシル-L-ヒスチジル)を用いると、驚いたことに生成物の絶体配置の異ったシアノヒドリンが得られることが見出された。すなわち、シクロ-(L-フェニルアラニル-L-ヒスチジル)を用いるとR体のシアノヒドリンが得られるのに対し、シクロ(L-ロイシル-L-ヒスチシルノを用いるとS体が得られることとなった。この結果、触媒を使い分けることにより、相方の絶体配置のシアノヒドリンを自在に作り分けることが可能となった。
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