特徴ある織物や編物の原料を得るため、繭糸繊度の増大を目的として太繊度蚕品種日507号・日508号×中507号・中508号(さきがけ)を春蚕期に2000頭規模で桑葉で常法により条桑飼育し、平成元年および2年度の研究成果に従って4齢初期に幼若ホルモン活性物質(メトプレン)の大量投与を行った。得られた繭を原料として27デニ-ルの生糸を繰糸し、その生糸を100本合糸し、強いS撚をかけて精練した絹糸を用いて天竺編みの編物を作成した。 得られた編物は、通常の細繊度の生糸を原料として得られた編物と比較して腰が強く、単繊維の繊度が太いため合糸する糸の本数が少なくてすむと言う利点があり、バルキ-性が低下する事もなく、手触り、光沢も遜色のないもので、実用性の高いものが得られた。飼育量に制限があり、生糸を大量に得られなかったので織物の試作にはいたらなかったが編物メ-カ-の意見および絹織物の品質評価の専門家の意見によると、本研究で得られた太繊度の生糸は織物原料として十分な実用性を供えていると確信しうる結果が得られた。 太繊度の生糸が基本的にどの様な性質を備えているのか、細繊度の生糸と比較してどの様な点で優れているのかを確認するため、繭糸繊度の異なるあけぼの、赤城×清水、さきがけおよび4齢期に抗幼若ホルモン活性物質を投与して得た錦秋×鐘和の3眠蚕、の4品種の繭から繰糸した27デニ-ルの生糸について強力、伸度およびヤング率の3点を調査した。その結果、繭糸繊度が太くなるほど、伸度が大きくなり、強力は繊度単位当たりの値は小さくなり、ヤング率が小さくなった。すなわち繊度の太い繭糸ほど柔軟で腰のある繊維となるという結果となった。逆に細い繊度の繭糸ほど堅くなるという傾向が得られ、太繊度の生糸の物理性に製品としての利点が見出だされた。
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