これまでの研究で、木材組織内の液体流動は著しく不均一に進行し道管などの一部組織のみ率先流動することが明らかにされ、この現象を利用すれば特定組織だけを選択的に着色できることから、樹種によっては従来の均一染色法とは異なる特有の色調を木材に付与できるものと期待された。期礎研究の結果、心材でも易浸透性で、選択的着色性の著るしい樹種……つまり実用性の高い樹種として、カシ類(シラカシ、アラカシなど)、ハンノキ、ヤチダモ、シデ類、ツバキが選出された。また、ブナも辺材幅が広く、選択的流動性が著しいので可能性大と判断された。 そこで本試験研究では(1)建築用床材料(2)家具・木工品への利用をめざして実用サイズの材料の着色実験(加圧注入法と毛管圧流動法)を行った。なお、着色剤は、物理化学的性質や粒子径の差異を考慮して染料系4種、顔料系4種を用い、0.3〜5.0%の濃度のものを室温で注入した。溶媒、分散媒は蒸留水を用い0.3%の界面活性剤を添加した。 〔結果〕 1)注入方法による差異:毛管圧流動の場合には加圧注入法に比較して流動量が著しく少ないが、毛管径の差異による流速の差を生かすことができるので選択的着色性が著しい。流動は主として木口面から生ずるが、浸漬法の場合、両木口面を液中に没すると内部空気の逃げ場がなくなり流速が急激に低下してしまう。毛管圧流動による場合は一方の木口面は空気中に出るように設定する必要がある。 2)着色剤による差異:染料系着色剤の場合、カシ類、ヤチダモでは鮮明な染め分けがされるが、ハンノキ、シデ、ツバキ、ブナでは顔料系の着色剤より不鮮明になる。とくに加圧注入においてその傾向が著しい。後者の樹種群の場合、毛管径が早材から晩材に向けて順次小さくなるので顔料粒子径により着色範囲が異なるため、顔料による着色パタ-ンの変更が可能である。
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