研究概要 |
東北大学農学部付属農場において,1989年10月に生まれたホルスタイン種雌5頭を試験対象とした。初回免疫約1カ月前より2週間隔で,末梢血塗抹標本を作製し,Theileria sergenti(TS)の感染のないことを確認した。初回免疫として,TS赤内型虫体抗原3ml(蛋白量約0.35g/頭)と,Propionilacterium acnes(=Corynelacterium naririm,PAB)死菌体10ml(乾燥重量415mg/頭)を腹腔内に接種した。その2週後に抗原単独で同用量,同一経路で処理し,翌日から放牧を開始した。初回免疫後から8週間は毎週さらにそれ以後は2〜4週に1回の割合で,一般臨床所見,血液学的所見およびELISA抗体の推移を下牧時(10月末日)まで観察した。加えて,2週間隔で都合6回,試験牛の末梢血より単球を分離し,溶性テトウゾリウムの還元量を経時的に定量(MTTーDMSO法)し,呼吸代謝量を調べた。 その結果,試検牛では放牧約4週後に寄生赤血球(PE)率のピ-クをむかえ,赤血球数およびPCV値もこれに伴って急激に下降した。非免疫対照群2頭中1頭は,この時期にPCV値が9まで下降したため抗原虫剤を投与した。対照群の残り1頭は,放牧3週後に事故により下牧した。事故に至るまでの詳細は不明であるが,あるいはTS感染による体力の消耗が一因となった可能性は大いに考えられた。一方,免疫群3頭のPE率,赤血球数あるいはPCV値などの推移は基本的には対照群と軌を一にした。しかしながら,本群ではPE率のピ-クが対照群よりやや遅延(放牧開始後6〜8週)し,その後のPCV値あるいはヘモグロビン量の回復傾向は良好であるとの印象を受けた。免疫群3頭中2頭では,入牧時すでにELISA・OD値は陽性域に達し,他の個体では入牧1〜3週で陽転し,以後上昇を続け放牧期間中全群ほぼ同程度の高いOD値で推移した。 また,両群の末梢血単球の呼吸代謝量は虫体の増殖に伴って増加し,単球機能の活性化が窺われた。
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