研究概要 |
マウスは化学物質の慢性毒性試験における選択動物として多用されるが,マウスは遺伝的に腫瘍を多発する動物種である。したがって,マウスでの陽性所見は,必ずしもヒトを含む他動物種へ外挿出来ない。この一方,エネルギ-制限食は,ゲッ歯類の腫瘍を抑制する事及び寿命の延長効果のある事が知られている。我々は,マウスを用いた毒性実験にエネルギ-制限を適用することにより,自然発症腫瘍の頻度を減少させることにより,マウスを用いた発癌試験において,用量一反応関連をより明確にする事が出来るのではないかと考え検討を行って来た。 我々は,自然発症腫瘍として,レトロウイルスの一種であるマウス乳癌ウイルスによって生じる乳癌と,アスベストにより誘発される肺腺癌を例に検討して来た。 I.自然発症マウス乳癌に与える影響 SHNマウスは,日本で開発された乳癌多発マウスであり,生後1年半以内にほぼ80%が乳癌を発症する。我々は,SHNマウスを用い,エネルギ-制限内影響を検討した。その結果,エネルギ-制限食群においては,乳癌の発症は月齢31ケ月においても完全に抑制されていた。この一方対照食群では,予想通り1年6ケ月齢で60%程度が発症し,28ケ月齢で全例(33匹)が死亡した。この機序について検討を行った所,乳癌ウイルスの遺伝子発現の抑制,乳腺組織の未熟性,脳下垂体ー卵巣軸の未熟性が考えられた。 II.アスベストによる肺腺癌に与える影響 A/Jマウスは自然発症肺腺癌を多発するが,この系統を用いアスベストによる腺癌とアスベストの用量ー反応関連を検討した。その結果,対照食群では検出出来ない用量ー反応関連が,エネルギ-制限食を用いる事により検出された。
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