研究概要 |
損傷組織の生活反応判定についての研究の一環として、本年度は、特にラット背部の皮膚に形成した切創に関して局所のアルブミン(A)・グロブリン(G)量を創縁から400μmの区分ごとに、区分IからVIIIについてELISA法(サンドイッチ法)によって測定し、A/Gの値を求め、これらが損傷の生前死後の鑑別、受傷後の経過時間の判定に利用し得るか否かを検討した。さらに、死後変化(約20℃に放置)および死斑の発現(麻酔死させた後、背部を下方にして約20℃に放置)の影響についても検討した。得られた成績の概略は以下の通りである。 1.生前損傷各区分におけるA,G量は、創縁部分の区分Iが最高値を示し、概ね創縁からの距離に従って順次低下する。死後損傷では各区分間に差はなく、Aでは4.9±0.7μg/mg、Gでは0.9±0.4μg/mgであった。 2.生前損傷各区分におけるA、G量は、死後損傷よりも高値であることから損傷の生前死後の鑑別は可能であった。特に、創縁部分の区分IおよびIIではA、G量共受傷直後から死後損傷よりも高値を示すことは注目に値する。 3.生前損傷各区分におけるA/Gの値は、死後損傷より低値であることから損傷の生前死後の鑑別は可能であった。 4.受傷後に伴う各区分のA、G量およびA/Gの値の変化によって、受傷後の経過時間の推定の可能性が考えられる。 5.死後変化の影響について、1週間放置した試料のA、G量共死後直ぐに採取したものの値とほぼ同じであり、やや腐敗が進んだ試料についても損傷の生前死後の鑑別が可能であると考えられる。 6.死斑の発見の影響について、生前損傷各区分におけるA、G量についての前記1.の傾向に着目すれば、概ね死斑が完成する時期までの間ではなお応用可能であると考えられる。 本法は簡便、確実な損傷組織の生活反応判定法であり、法医学の実際面への応用が期待される。
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