研究概要 |
大動脈の一部を無縫合的に置換もしくは補強するために経カテ-テル的に挿入可能な新しい人工血管(Shape memory Aortic Prosthesis:SAP)とその移植システムを開発した。SAPはNiーTi合金(Nitinol)をステントとしたポリウレタンチュ-ブより成り、30℃で原型に復元するように設計した。犬10頭の下行大動脈内にSAPを無縫合で移植した結果、宿主大動脈外径より3mm太いSAPを用いれば固定性良好でかつ宿主大動脈への障害も軽微であり3カ月以上グラフトとして機能した。しかし、12カ月移植犬3頭の剖検結果では、仮性内膜の過剰増殖により90〜100%の狭窄をきたすことが判明した。したがって、移植期間3〜4か月にとどめるのが安全である。移植システムはcatching catheter,delivery catheter,pulling wire,pushing rodから構成される。本システムにより犬3頭と羊1頭で経大腿動脈でSAPを下行大動脈に移植することができた。さらに、手術でStanfordB型大動脈解離モデル犬を7頭作成し、耐術の3頭でSAPを用いて急性期entry閉鎖を試みた。SAP挿入移植後の大動脈造影で、仮腔が消失し、大動脈解離の非手術的entry閉鎖に応用可能なことを示した。評価不十分のため臨床応用は行わなかったが、現時点では、瘤化の進行していない急性大動脈解離症例に、大動脈造影に引き続きSAPを適用することで解離の進展を防ぎ、全身状態の改善をはかり、待機手術に移行する、という応用が適している。動物実験段階ではあるが、大動脈内にカテ-テル法で人工血管を移植し、大動脈解離等の治療に応用できる可能性を示した本研究の意義は大きい。今後は、より長期の移植に耐える新世代のSAPの開発に向かうべきである。
|