研究概要 |
腎細胞癌は有効な腫瘍マ-カ-を持たず画像診断が主流であるため、早期癌あるいは良性腫瘍との区別には無力であり、またマススクリ-ニングには不向きである。腺癌組織の生化学的特性の一つは硫酸転移酵素の亢進による硫酸化糖脂質の増量であり、組織レベルでのこの特性は腎細胞癌で顕著である。糖脂質硫酸化酵素の活性は血清にも発現し、更に腎細胞癌血清で顕著に活性亢進が認められた(Eur.J.Biochem.,印刷中)。そのほかの癌では、胃癌、大腸癌、肺腺癌、子宮癌、膀胱癌、こうがん癌は正常レベルであったが、肝細胞癌のみが腎細胞癌より更に高値を示した。癌以外の他の肝疾患では肝硬変や肝炎は正常レベルであった事より、本酵素活性は腎細胞癌のみ成らず肝細胞癌の血清診断に有効である結果が得られた(J.Natl.Cancer Inst.,投稿中)。従来、本酵素活性の測定には煩雑な方法が用いられていたが、迅速かつ簡便な測定法を新たに開発した(Anal.Biochem.,1989)。しかし、酵素生成物である硫酸化糖脂質は血清蛋白に結合することから、血清酵素の測定のための改良法を開発した。本研究の課題である、本酵素に対するモノクロ-ナル抗体の作製は現在進行している。期限内に抗体の作製が不調に終わった原因は、既にラット腎で確立した精製法がヒト組織に応用できないという点にある。また、ヒト組織は剖検にり得ることが多く新鮮さに欠けるためか、酵素の回収率がきわめて低下していた。しかし、本酵素はヘパリンセファロ-スに強い親和性を持つことを明らかにしたので、正常及び癌血清数百mlより本酵素を精製している。モノクロ-ナル抗体の抗原は約50%精製度の酵素標品を用い、培養上清が酵素活性を免疫沈降で阻害するスクリ-ニング法でクロ-ンを検索している。本酵素の精製段階で、本酵素は脂質と結合し、かつ脂質によって不可逆的に活性発現が制御されていることが明らかになった(投稿準備中)。
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