ヒトエリスロポエチンを利用した術前自己血貯血法の確立

1990 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 01870105
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 黒川 高秀 東京大学, 医学部・整形外科教授 (90010298)
• 研究分担者: 高橋 孝喜 東京大学, 医学部・輸血部, 助手 (50171484) ; 十字 猛夫 東京大学, 医学部・輸血部, 教授 (20009997) ; 脇本 信博 都立府中病院, 整形外科, 医長 (90191733)
• キーワード: 自己輸血法 / 術前貯血法 / スイッチバック式採血、戻し輸血法 / 採血後貧血 / ヒトエリスロポエチン / 投与量、投与回数依存性

研究概要

本研究の大目的は、腎性貧血では有効性が認められたヒトエリスロポエチン(以下RーHuEPO)が、術前自己血貯血法の確立に寄与できるか検討することであった。小目的として次の5項目を検討した。即ち、1.rーHuEPOが正常な増血能をもつ患者の赤血球産生を高めるか?2.自己血採血後に必然的に生じる貧血を軽減するか?3.rーHuEPOが健康者の赤血球産成を高めるとしたら、実験的で有効な投与方法は何か?4.副作用があるか?5.自己血輸血を行う癌例全てに投与すべきか?であった。
平成元年度の研究から、rーHuEPOは腎不全の患者のみならず、貧血のない患者の赤血球産生能を高め、採血後の貧血を軽減した。その効果は、投与量・投与回数依存性であり、又十分量の鉄剤の補充を必要とした。実際的な投与法については、投与量、投与回数、初回採血前の投与期間の3点から検討した。各群間の比率から最少の1回投与量は、200u/kgで、週2回以上の静脈内投与が必要であった。rーHuEPO投与開始後、7〜10日で増血がみられるため、初回採血の1週前からの投与開始が必要であった。本研究では、腎性貧血症例でみられた高血圧、血栓症などの副作用は1例もなかった。しかし本薬剤は高価でありまた催奇形成の可能性を考慮し、投与すべき対象を検討した。本研究を行った2年間、rーHuEPOを使用せず術前貯血を行った症例で、採血後貧血からの回復を若年者と高令者で比較した。若年者は採血後の貧血からの回復がよくrーHuEPOを使用せずとも十分量を貯血し得たが、中高令者では採血後貧血からの回復が悪く、手術を延期した症例も多くみられた。以上よりrーHuEPOは、貯血後の貧血を改善し、術前貯血法の確立には有効な補助手段であることが判明したが、その投与は中高令者に限定すべきであるとの結論を得た。

研究成果

• [文献書誌] 脇本 信博: "自己血輸血" カレントテラピ-. 7. 1023-1034 (1989)
• [文献書誌] 脇本 信博: "エリスロポエチンによる他家血輸血回避への試み" 診断と治療. 78. 261-268 (1990)
• [文献書誌] 脇本 信博: "貯血式自己血輸血(I)ー液状保存による自己血輸血ー" 整形・災害外科. 33. 449-458 (1990)
• [文献書誌] 脇本 信博: "自己血輸血法ー同種血輸血回避システムを中心としてー" Mebio. 7. 87-95 (1990)
• [文献書誌] 脇本 信博: "自己血輸血法におけるエリスロポエチンの投与についてー採血後貧血の回復が不良な中高令者に限定してー" 自己血輸血. 3. 177-182 (1990)
• [文献書誌] 脇本 信博: "整形外科領域における貯血式自己血輸血法ー特に若年者と中高令者の採血後貧血の回復を中心としてー" 日本輸血学会誌. 37. (1991)
• [文献書誌] Koumegawa J.: "Recombinant Human Erythropoietin corrects Anemia of Blood Loss:A Study in the Dog." J.Cell Cloning. 8. 97-106 (1990)
• [文献書誌] Wakimoto N.: "Recombinant Human Erythropoietin in Predeposit Autologous Blood Donation for Elckrly Patients." ISBT & AABB Joint Congress. (Abstract). 128 (1990)
• [文献書誌] 脇本 信博: "自己血輸血ー貯血式、採血基準の在り方ー" 臨床病理. (1991)
• [文献書誌] Wakimoto N.: "Recombinant Human Erythropoietin in Precleposit Autologous Blood Donation to Reduce Blood Loss Incluced Anemi" N.Engl.J.Med.