研究概要 |
平成2年度に得られた重要な成果として下記の2点を上げることができる. 1)肉腫由来癌細胞(Sarcoma 180)や白血病由来細胞(P388)等の分裂速度の速い癌細胞は,正常細胞に比較して解糖系の活性が高いことが知られているが,今回その原因がミトコンドリアの外膜に結合しているhexokinase量が顕著に上昇していることによることが明らかになった.従って,もしこの活性をも抑えることができれば,より低濃度の今回開発中のミトコンドリアをタ-ゲットとした制癌剤で癌細胞の増殖を選択的に抑制し,より毒性を軽減できることが予測された. 2)平成元年度に,申請者らは,ラット肝から機能の異なると思われる3種類のタイプのミトコンドリアに分けて単離精製できることを発見した:一つは,常法によって得られるミトコンドリア(I型)であり,二つめは,I型の約1.2倍の呼吸活性とATP生成能を有するII型,そしてもう一つのタイプは,蛋白質合成活性が高いIII型である.本年度は,III型のミトコンドリアの蛋白質合成活性が,細胞内のセカンドメッセンジャ-であるInosi tol triphosphateによって顕著に増加されることを今回初めて明らかにした.III型ミトコンドリアは電顕的にも確かにミトコンドリアと同じ形態をしていること,そしてパ-コ-ルによる密度勾配遠心により従来のミトコンドリアに比較してはるかに密度が軽いことが確証され,全く新しいタイプのミトコンドリアであることが明らかになった.本研究で開発中の制癌剤は,I型とII型のミトコンドリアのATP合成を阻害するが,III型のミトコンドリアのエネルギ-変換活性に対する作用は若干低いことが明らかになった.
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