研究概要 |
有用な遺伝子を導入して植物の種を改良する試みは,国の内外を問わず広く行なわれつつある。本研究は,センチニクバエというハエの産生する抗菌性蛋白のcDNAを植物に導入し,バクテリアやカビに対する抵抗性を賦与した植物体の作出を試みようとしたものである。センチニクバエの抗菌性蛋白としては,ザルコトキシンI,IIというグラム陰性菌に対して有効な蛋白を取り上げた。これらの蛋白に対するcDNAのクロ-ニングはすでに行なわれていた。また,本研究の過程で,同じセンチニクバエから,Candidaや酵母等に殺菌的に働く蛋白が精製され,そのcDNAが軍離されたので,このcDNAも用いることにした。 まず,ザルコトキシンIのcDNAをプラスミドpGA643のマルチクロ-ニングサイトに組みこみ,Agrobacterium LBA 4404に導入してタバコに感染させた。このタバコの葉の細胞からカナマイシン耐性のカルスを分化させて植物体を得た。この組み替えDNAは,カリフラワ-モザイクウイルスの35S RNAプロモ-タ-を利用してザルコトキシンIを発現するように構築してある。このようにして育てた植物体からRNAを抽出し,ザルコトキシンIのmRNAが存在するかどうかをNorthern法により解析した。その結果,予想されたサイズのmRNAの存在が確認された。次に,この植物体の粗抽出液中に抗菌活性が認められるかどうか,大腸菌に対する抗菌活性を調べたところ全く認められなかった。そこで,この抽出液中にザルコトキシンIが存在するかどうか,イムノアッセイで検定したところ,蛋白の存在は確認できなかった。この結果は,mRNAは存在するものの,蛋白にまで翻訳されていない可能性を示唆する。全く同様の結果がザルコトキシンIIについても得られている。今後の課題として,植物細胞中で何故昆虫のmRNAが翻訳されないのか,検討する必要がある。
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