研究概要 |
1.研究目的:癌の患部を局部的に加温する温熱療法は、副作用の無い有力な癌の治療方法である。しかし、骨腫瘍のような深部の癌を局部的に加温するのに有効な方法は未だ開発されていない。本研究は、生体活性なガラス中に強磁性のフェライト粒子を析出させる方法により、生体内で骨と自然に結合し、しかも交流磁場下で発熱する材料、すなわち体内に埋入して骨腫瘍などの深部の癌だけを加温するのに適した結晶化ガラスを合成する条件を明らかにすることを目的とする。 2.研究成果:Fe_2O_3 40,CaO・SiO_2 60,B_2O_3 3,P_2O_5 3,重量比の組成の原料混合物を白金るつぼに入れ、MoSi_2電気炉中で1550℃で1時間溶融し、融液を室温の鉄板上に流し出すと、結晶を含まない黒色のガラスを得ることができた。このガラスは、メスバウァ-スペクトルにより、多量のFe^<3+>イオンと共にFe^<2+>イオンを含むことが確かめられた。同ガラスを活性炭の粉末で覆い、SiC電気炉中で室温から1050℃迄5℃/minの速度で加温し、1050℃に達すると同時に電気炉から取り出すと、黒色の結晶化ガラスが得られた。粉末X線回折と透過電子顕微鏡観察によれば、同結晶化ガラスはCaOーSiO_2ーB_2O_3ーP_2O_5系のガラス質マトリックス中に、比較的大きい粒径のβーウォラストナイト(CaO・SiO_2)と直径約200nmのマグネタイト(Fe_3O_4)が均一に分散した構造を有していた。粉末X線回折によれば、マグネタイトの量は約36wt%であった。磁化測定によれば、同結晶化ガラスは飽和磁化32emu/g,保磁力120 Oeの強磁性を示した。同結晶化ガラスをヒトの体液に等しいイオン濃度を有する36.5℃の擬似体液に浸漬すると、7日以内にその表面に骨の無機質に似たアパタイトの層を形成したので、同結晶化ガラスは生体内で骨と自然に結合すると推定された。
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