研究概要 |
1.研究目的:癌の患部を局部的に加温する温熱療法は、副作用の無い有力な癌の治療方法である。しかし、骨腫瘍のような深部の癌を局部的に加温するのに有効な方法は未だ開発されていない。本研究は、生体活性なガラス中に強磁性のフェライト粒子を析出させる方法により、生体内で骨と自然に結合し、しかも交流磁場下で発熱する材料、すなわち体内に埋入して骨腫瘍などの深部の癌だけを加温するのに適した結晶化ガラスを合成する条件を明らかにすることを目的とする。 2.研究成果:Fe_2O_3 40,CaO SiO_2 60,B_2O_3 3,P_2O_5 3重量比組成のガラスを活性炭に埋めて1050℃まで加温することにより、生体活性なマトリックス中に強磁性のマグネタイトを析出させた結晶化ガラスについて、次の実験を行った。直径0.1〜1mmの顆粒状試料約5gを死んだ豚の外径50mm、内径40mmの大腿骨の骨髄部に充填し、周囲を外径100×100×200mmの寒天ファントムで囲み、100kHzの交流磁場の下に置き、結晶化ガラス中心部の温度が45℃になるように、磁場の強さを制御した結果、大腿骨外周部は、磁場印加5分以内に43℃に達し、磁場が印加させる限り、その温度が保たれることが確かめられた。次に、生きている兎の脛骨骨髄部に、VX2腫瘍の2×2×2mm(10^6細胞)の試料片を移植し、2週間経過後腫瘍が大きく成長した段階で、上記結晶化ガラスの直径3mm、長さ5cmのピンを同骨髄部に埋入し、100kHzの交流磁場の下に50分間置き、さらに3週間経過後、同脛骨をX線的に、また組織学的に調べた結果、同骨髄内の癌細胞は完全に死滅し、骨組織は正常に保たれていることが確認された。一方同様に処理し、磁場で処理することだけを行わなかった脛骨においては、腫瘍が大きく増殖し、骨が折れていた。これにより、本研究で開発された生体活性強磁性結晶化ガラスは、癌の温熱治療用発熱体として有用であると結論することができる。
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