研究概要 |
Benzo[a]pyrene(B[a]P)は、5個のベンゼン環からなる多環式芳香族炭化水素(PAH)であり、発ガン性、突然変異誘発性、および内分泌腺撹乱作用を有する難分解性物質である。また、B[a]Pは土壌中など自然環境中に存在するが、その性質から微生物による分解が困難である。そのため、B[a]P分解微生物の報告例は少なく、B[a]P分解酵素やその代謝経路についても明らかにされていない。そこで、本研究において、B[a]P分解菌Paenibacillus sp. B2-1株からB[a]P分解酵素の探索を行い、その特性評価を行うとともに、B[a]Pの分解代謝経路について考察を行った。 まず、B[a]Pのみを炭素源とした寒天培地上で、Paenibacillus sp. B2-1株の前培養を行った。前培養により得られた菌体を0.2ppmのB[a]Pを含んだ液体培地に植菌し、25℃、110rpmの条件下で4日間、大量培養を行った。この培養液から、遠心分離機を用いて菌体を回収し、超音波破砕機によって菌体を破砕した後、遠心分離を行い、その上清を細胞抽出液とした。そして、得られた細胞抽出液のB[a]P分解特性をHPLCなどで調べた。その後、細胞抽出液を用いて、陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィーを行い、分解酵素の精製を行った。B[a]P分解活性は、B[a]Pの分解代謝物の蛍光波長を測定することで評価した。精製後、得られた酵素の精製度をポリアクリルアミドゲル電気泳動により確認し、B[a]P分解酵素の分子量、補因子の検討、基質特異性、代謝物の同定などの特性評価を行った。 Paenibacillus sp. B2-1株の大量培養後、得られた細胞抽出液とB[a]Pを反応させ、HPLCを用いて分解産物を分析した結果、B[a]Pの分解代謝物であるBenzo[a]pyrene-trans-9,10-dihydrodiolとBenzo[a]pyrene-cis-4,5-dihydrodiolが生成されていることがわかった。さらに、この細胞抽出液を精製した後、得られたB[a]P分解酵素はゲル濾過クロマトグラフィーとSDS-PAGE、Native-PAGEの結果から、サブユニットを構成している酵素であり、その分子量は約440kDaであることがわかった。また、得られた酵素は、NADPHおよびNADHを添加した際、B[a]Pの分解活性が増大し、これらが補因子として働いていることが確認された。さらに、基質特異性の検討を行った結果、B[a]P以外のPAHについても分解活性を確認することができたが、B[a]Pに対してより高い活性を示したことから、B[a]Pに特異性の高い酵素であることが示唆された。
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