本年の研究成果として高達寺址の浮屠について述べたい。 高達寺址は韓国京畿道驪州郡恵目山中腹に位置する統一新羅時代の寺院址。創建経緯は明らかではないが、高麗時代には三大禅院に数えられるほどの名刹であった。寺址内の石造物群すなわち高達寺址浮屠・高達寺元宗国師恵真塔・高達寺元宗国師恵真塔碑および〓首・高達寺址石仏座・高達寺址双獅子石灯は、その優れた芸術性が認められ、いずれも韓国の国宝と宝物(日本の国宝と重要文化財に相当)に指定されている。このうち高達寺址浮屠と高達寺元宗国師恵真塔(以下恵真塔)は、韓国を代表する僧塔として名高い。この度は二基の浮屠の造形性の差異と政策背景について検討した。 高達寺址浮屠は重厚感と安定感があるのに対し、恵真塔は軽快なイメージがある。両者の造型感覚の違いは、とくに台座の亀と龍の表現において著しい。すなわち高達寺址浮屠の亀が厳しい目で正面を睨視し、他人を寄せ付けない威厳と風格を備えているが、後者は頭を右に向け、よそ見をしている。管見の限り、台座の亀がよそ見をするのはこの作例だけである。また台座左右の龍も、前者が大きく口を開け、激しく体をうねらせて如意宝珠を競り合う、大胆で迫力のある表現であるのに対し、後者の龍は細い体つきで雲中を軽やかに泳ぎ、雲を噴出す顔も幾分柔らかな表現となっている。 また恵真塔の龍が首を右に向けてつくられた理由は、この度現地を踏査することでこの問題も氷解した。高達寺址浮屠は寺院址の北方のもっとも高いところに、恵真塔は一段低い寺院址の東端にそれぞれ位置していた。つまり恵真塔の亀の視線の先に高達寺址浮屠があるわけで、恵真塔の亀は高達寺址浮屠を見上げていたのであった。両浮屠の位置関係からすれば、おそらく高達寺址浮屠は高達寺開山の禅師を祀ったもので、恵真塔の元宗国師はその弟子であっただろう。師から弟子への法脈相伝が重要な意味をもつ禅宗の立場から恵真塔を見直すと、そこには元宗の師への尊敬の念が師の浮屠を見上げる亀の形としてあらわれたと考えられるのである。
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