研究概要 |
タキソールは乳癌、子宮癌、肺癌等の固形癌の化学療法に最も有効な制癌剤の一つである。我々は既に日本産イチイよりカルス(イチイ培養細胞)を誘導し、このカルスはタキソールを初め多くの中性タキソイド類を生産し、特に主生成物であるtaxuyunnanine C(1)とその14位アシルオキシ類縁体(14β-(2-メチルブチリルオキシ)体2,14β-(3-ヒドロキシ-2-メチルブチリルオキシ)体3)の収率は乾燥重量の数%にも及ぶ事を見い出している。タキソールの供給は現在イチイからの抽出分離とタキサン骨格上の酸素官能基の数と位置がタキソールと同じ、10-デアセチルバッカチンIIIからの部分合成に頼っている。もし1とその類縁体2,3のタキソール合成中間体への変換が可能となれば大変有意義な事と言える。この目的のためには、化合物1〜3の1,7,9,13位への酸素官能基の導入と14位の酸素官能基の除去が必要となる。これは化学反応だけでは不可能と考え、植物培養細胞と微生物を用いた生物変換反応を利用した中間体合成を検討した。 これまでにイチョウ(Ginkgo biloba)の懸濁培養細胞は1〜3の9α位に位置および立体選択的に水酸基を導入することを見い出した。9位水酸化化合物の収率は基質の官能基の種類に依存し、培養液中の1の最適濃度は60mg/Lであり、1の培養液中への最適添加時期は細胞の対数的成長の後期であり、9位の水酸化された化合物を得るための最適培養時間は48時間であった。さらにこれらの基質1〜3はAbsidia coerulea IFO 4011による微生物酸化により、7β位が位置および立体選択的に水酸化された化合物を与えた。興味あることには、14位のアシルオキシ基のアルキル側鎖が長いほど生成物の収率は良くなった。またこの条件で培地にβ-シクロデキストリンを添加すると1は7β-オキシ体以外に13位および1位に水酸基が導入された化合物やその転位生成物を生成した。これらの結果はタキソールの生合成との関連およびタキソール合成中間体の生物変換反応を利用した新規合成法の開発の二つの観点より大変興味のある結果と言える。
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