研究概要 |
馬バベシア原虫(Babesia equi)は馬赤血球内に寄生し、貧血、黄疸を主徴とする疾患である。本原虫は分類学的にはBabesia属より、Theileria属に近縁であることが分子系統学的研究から報告されている。本原虫の宿主細胞内での動態を解析する上で、その表面蛋白質EMA-1,EMA-2に着目して研究を実施した。まず、それらに対する抗体をマウスで作製し、感染赤血球内部での2種の蛋白質の動態を観察した。その結果、両蛋白質が同一細胞上にほぼ同時期に発現していることが共焦点顕微鏡で観察され、EMA-2では感染初期に赤血球内に拡散し、細胞内面に蓄積される像も認められた。さらに赤血球膜画分を調製し、組換えEMA-1,EMA-2との結合性を検出したところ、後者でのみ特異的な結合を示した。以上の結果から、EMA-1とEMA-2の間では免疫学的性状、赤血球内での動態が異なり、機能的にも異なることが示唆された。 2つの表面蛋白質間の機能的分化に関わる遺伝的背景を明らかにするため、まず両遺伝子をゲノム上にマッピングすることを行った。パルスフィールド電気泳動法分離された4本の染色体DNAをナイロン膜状に転写し、EMA-1,EMA-2遺伝子それぞれに特異的に反応するプローブによるサザンサザンプロッティングを実施したところ、EMA-1,EMA-2はそれぞれ第2染色体、第1染色体に位置することがわかった。タイレリア原虫のEMA相同遺伝子(MPSP)は第1染色体に存在していることから、EMA-2がMPSPのオーソロガスな遺伝子と考えられた。なぜBabesia equiだけが2種類の表面抗原を発現しているのか、機能的な観点からも興味深いだけではなく、遺伝子の進化についても今後解析することによって興味深い結果が得られると思われた。
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