これまでのX-band ESR装置では大きな0磁場ギャップのため一部しか観測できていなかった酸素気相のESRスペクトルの全体を高周波強磁場ESR測定によって明らかにした。過去のX-band ESR測定の結果を説明するためTinkhamとStrandbergが提出した酸素分子回転運動をとりいれた理論によって我々の測定結果はほぼ説明できた。理論とのいくらかの食い違いは、Zeemanエネルギーが分子回転運動の摂動として取り扱われている点が、我々の測定した強磁場領域で破綻しているためであると考えられる。この結果を低温に関する国際会議LT23及び日本物理学会春の年会で発表した。さらに吸収線幅がブロードなためこれまで観測されていなかった液相での酸素のESR信号を初めて観測した。100GHz付近で1本だった吸収線が高周波に向かうに従い複数の構造にスプリットしていく興味深い振る舞いが観測された。液相での分子運動を反映した振る舞いではないかと考えており今後さらに測定を進める予定である。阪大旧天谷グループからダイヤモンドアンビルセルの提供を受け高圧下ESR測定の予備実験を行った。ダイヤモンドアンビルセルの開口部が狭いためこれを透過する際に電磁波が減衰する点が問題であるが、レンズや電磁波を集光するためのホーンをセル直前におくなどしてこれを解決することを試みた。これらをパルスマグネットと組み合わせて、今後、高圧下ESR測定を可能としていく予定である。
|