今日の新材料研究分野において、ナノ構造薄膜の研究開発が盛んに行われている。特に、超微細中空構造をもつカーボンナノチューブ(CNT)は、先鋭形状、物理的・化学的安定な特長を持つことから、次世代薄型フィールドエミッションディスプレイ(FED)用電子源材料やナノエレクトロニクスデバイスへの応用が期待されている。 本研究では、独自で考案したナノチューブ内蔵カーボン薄膜成膜装置を用いて作製した薄膜の基礎物性と、電界電子放出特性との相関を解析し、FEDの実現を目指すことを研究目的とした。さらにFEDへ応用するため、CNTの直径・密度制御を行った。また、CNTの成長機構を調べるため、CNT薄膜成膜中にプラズマプロセスその場観察を行い、プラズマ状態とCNT成長形態との相関について調べた。 新装置によるCNT薄膜の創製においては、カソードに高周波電源を装備し、アノード・カソード電極間距離が可変できる高周波プラズマ化学気相成長法を開発し、CNT薄膜を作製することに成功した。作製したCNT薄膜は、基板に対して垂直方向に配向しており、直径及び長さがほぼ揃っていた。垂直配向CNTとランダム配向CNTを作り分け電界電子放出特性を調べたところ、CNT先端に局所電界集中が発生しやすい垂直配向CNTよりも、ランダム配向CNTの方が優れた特性を示した。本条件で作製したCNT薄膜では、形状因子以外の表面電子状態が大きく電界電子放出特性に影響しているものと思われる。また、電極間距離をパラメータにプラズマ状態を変化させたところ、CNT成長形態に大きな違いが生じることがわかった。プラズマプロセスにおける、プラズマ発光、自己バイアスが、プラズマ励起種、イオン加速エネルギーにそれぞれ相関し、CNT成長には原料である炭化水素励起種の存在と、閾値以上のイオン加速エネルギーが必要であることがわかった。以上の結果のように、本研究では、FED実現に向けて有意義な知見と、成長機構解明への知見が得られた。
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