細胞間接着は、細胞同士の接着にとどまらず、細胞の分化、増殖、形態変化等に必須の役割を果たしている。上皮細胞間接着は主にタイトジャンクション、アドヘレンスジャンクション(AJ)からなっている。近年、神経シナプス結合においてもAJ様の接着の存在が示され、シナプスと上皮細胞間接着との相同性が指摘されている。AJではカドヘリン-カテニン系が必須の接着機構として機能しているが、私共は、AJにおけるもう一つの接着機構としてネクチン-アファディン系を見出している。ネクチンは免疫グロブリンスーパーファミリーに属する接着分子で、細胞内裏打ち蛋白質アファディンを介してアクチン細胞骨格系と連結し、カドヘリン-カテニン系と相互作用している。本年度の研究においてネクチン-アファディン系による神経回路網形成機構について以下の結果を得た。 1.loxp配列にはさまれたアファディン遺伝子を持つマウスとCaMKプロモーターでCreを発現させるマウスをかけ合わせ、脳特異的なアファディンコンディショナルノックアウトマウスを得、現在解析中である。 2.ネクチン-1の神経回路網形成における役割を明らかにするため、ネクチン-1のノックアウトマウスを作製した。ノックアウトマウスでは、シナプスのダイナミックな再構築がなされている海馬CA3領域において、ネクチン-1に加えカドヘリンの局在にも異常があり苔状線維の走行が乱れていることを明らかにした(投稿準備中)。 3.上皮細胞においてトランス結合しないネクチンが、カドヘリンのトランス結合によるRacへのシグナル伝達を抑制していること、ネクチンのトランス結合によりその抑制が解除されることを明らかにした。 以上のように、これらの結果から本研究の目的はほぼ達せられたと考えられる。
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