これまでに我々はアルツハイマー病(AD)でみられる神経細胞死が小胞体(ER)内に蓄積した折りたたみの不十分な異常タンパク質の処理機構の破綻など(いわゆるERストレス)によって引き起こされる可能性を報告してきた。このERストレス誘導性細胞死の実行機構についてはあまり明らかになってはおらず、そこで昨年度は、我々はERに局在するカスペース12に着目し、この分子がERストレス特異的に活性化し、ERから細胞質中に流出し細胞質中に存在するカスペース3を活性化することにより細胞死を実行する可能性について報告した(現在、論文投稿中)。しかしながら、カスペース12は現在のところ、げっ歯類においてのみその発現が確認されているだけで、ヒトにおいてはその発現が認められていない。そこで本年度はこのヒトにおけるカスペース12様の機能をもった分子がERストレス遊動性の細胞死実行に重要であるとの考えのもと、これら分子の同定をライブラリースクリーニング法によって行った。その結果マウスカスペース12に最も相同性の高い分子としてヒトのカスペース4を高頻度に取得した。細胞生物学的なカスペース4の機能解析の結果、カスペース4は主としてERに局在し、ERストレス特異的に活性化されることが明らかとなった。さらにはカスペース4の発現をRNAi法により特異的に減少させた細胞ではERストレス誘導剤やアルツハイマー病の病態と深く関わっていることが知られているAβペプチドに対して抵抗性を示し、細胞死が抑制された。またAD患者脳において特に障害の顕著な海馬領域に特異的に発現亢進することを免疫組織化学的に明らかにした。これらの結果よりカスペース4がAD脳でみられる神経細胞死実行に関与している可能性が示された(現在、論文投稿中)。今後はカスペース4の活性化調節因子及び特異的な基質の同定を行う予定でいる。
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