研究概要 |
相補的な多点相互作用は、生体内にみられる遺伝情報の伝達・複製に代表されるように、生物や化学の領域までまたがって、その特異性と機能に大きな注目が集まっている。本研究では、配位結合による自己組織化を用いることにより、金属イオンを介した配位子間の相補的な多点錯形成について検討を行った。 昨年度まで、ビピリジン骨格からPd(II)と錯形成することにより,2:1錯体が形成し,メチル基の立体障害によりanti体が選択的に生成することをみいだしている。また、ビピリジンユニットをブチレン基で連結した新規な2種類のビピリジン二量体を合成し,多点相補的錯形成を検討した結果、メチル基の位置が外_外のダイマーと内_内のダイマーからの自己集合では、収束した1:1錯体が生成した。一方、外_外のダイマー同士からでは,メチル基の立体障害により5:5錯体までの発散したオリゴマーの生成を確認した。 今年度はさらにビピリジン骨格や連結ユニットの長さ・柔軟性の組み合わせをかえることにより多点錯形成能の評価を行った。外_外、内_内の他に内_外という配位子、また3つのビピリジンユニットからなるトリマーの配位子、リンカーをジエチニル基にしたダイマーの配位子、を分子設計した。その結果、剛直なリンカー(ジエチニル基)より柔軟なリンカー(ブチレン基)のほうがこのシステムに適していることが分かった。また、ダイマーとそれに相補的なモノマーを錯形成したのちに、連結反応を行うことができれば、鋳型となる情報が分子レベルで転写できる可能性がある。実際に錯形成を行ったところ、相補的に三元錯体が形成していることが示唆された。 このように配位結合による相補的多点錯形成は、錯体化学の分野だけでなく、材料化学・分子認識化学等の分野に大きな波及効果を与えると期待される。
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