活動銀河中心核や超光度X線源、ガンマ線バーストなど、近年観測されている高エネルギー天体のエネルギー源としてブラックホールへの超臨界降着流が注目されている。また、超臨界降着はブラックホールの急成長を引き起こすため、クェーサーの巨大ブラックホール形成過程を解き明かす物理としても重要である。 私は超臨界降着流の光度を調べる為、移流および輻射輸送による降着流中でのエネルギー伝播を解いた。その結果、降着流中で発生した大量の輻射エネルギーがガスもろともブラックホールに吸い込まれる為、見かけ上のエネルギー変換効率が著しく減少することがわかった(これをphoton-trapping効果と呼ぶ)。さらに私は従来から提案されていた低次元の理論モデルと比較し、従来のモデルがこのphoton-trapping効果を正しく評価しておらず、超臨界降着流の光度を再現できないことを定量的に示すことに成功した。この成果はAstrophysical Journalに掲載されている。 また、振動数依存型の輻射輸送を解くことで輻射スペクトルを計算し、超光度X線源の観測データとの比較を行った。結果は以下のようにまとめることができる。(1)超臨界降着流の輻射スペクトルは見かけ上非常に高温になる。超光度X線源が、これまでの理論モデルの予言より遥かに高温なスペクトルを持つことは大きな問題とされていたが、私の計算結果はこの問題を解決する可能性がある。(2)超光度X線源の時間変動を質量降着率の変化として理解できる。これまでのモデルではブラックホール質量の変動が無いと観測データを説明できなかった。これは非現実的である。(3)IC342S1という天体のブラックホール質量が100倍の太陽質量である。これは従来のモデルが予言するよりも3倍も重いことを予言している。この成果は現在投稿中である。
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