研究概要 |
昨年度のモンゴル草原食物網の会席に加えて、今年度は北海道の2河川(幌内川と標津川)を中心に、水棲生物の炭素・窒素安定同位体分析を行い、水系での腐食連鎖、生食連鎖を含む食物網構造の解析を行った。以下のような新たな知見が得られた。 1)幌内川のbackwater pool(流路の蛇行部に形成される落ち葉だまり)やhyporheic zone(伏流水)を生息場所とする水生昆虫の一部で非常に炭素安定同位体比の低い幼虫が見つかった。このことから、一見好気的に思われてきた渓流生態系にはメタンガスを取り込む特異な腐食食物連鎖の存在することが明らかになった。現在、東京薬科大学でのDNA解析も並行して行い、メタンガスの取込み機構に関する研究を行っている。 2)標津川では'60-'70年代の直線河道工事に伴い、多くの河跡湖が出現した。その一つの河跡湖の水棲生物(魚類、水生昆虫、無脊椎動物、藻類、落葉)の同位体特性と本川のそれを比較した結果、河跡湖では生態系外からの侵入魚類固体が見られないのに対し、本川ではさまさまざまな魚種の侵入個体を同位体比から識別できた。この結果は、平成15年度の応用生態工学会で発表予定である。 昨年度に引き続き行ってきた低レベルトレーサー植物(δ^<13>C=600-800‰、δ^<15>=800-1,000‰のヤナギ2種(Salix spp.)とアベマキ(Quercus variabilis)を気密性の人工気象機内で育成することに成功し、トレーサーヤナギは乾重で5.0kg得られた。今後は、上記の2種類の水系(河跡湖と渓流のbackwater pool)を中心に、これらトレーサーヤナギを施与し、生態系レベルの物質循環における腐食連鎖の重要性を炭素・窒素という生元素に関して解析していく予定である。
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