ベルベリンの生合成経路上に存在する3つのO-メチル化酵素(OMT)、ノルコクラウリン6-O-メチル化酵素(6-OMT)、3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン4'-O-メチル化酵素(4'-OMT)、スコウレリン9-O-メチル化酵素(SMT)は厳密な基質特異性を有しており、これらO-メチル化酵素の反応特異性により、順序正しい生合成と生合成制御が行われている。如何にこのような反応特異性をもつO-メチル化酵素が進化してきたかを理解し、利用することは、酵素の分子機構の理解と新規な認識・反応特異性を有する酵素の創造による代謝工学の基盤を確立する上で極めて有用である。本研究ではこれらのOMTの一次構造と反応特異性の関係を明らかとすることを目的とした。 昨年度までに、6-OMTと4'-OMTの間でN末端側を細分化させたキメラ酵素を作製し、その解析によりOMTのN末端側の90アミノ酸が基質認識を決定していることを明らかとしていた。本年度は作製したキメラ酵素の精製と精製酵素を用いた酵素化学的解析を試みた。 キメラ酵素を大腸菌で発現させ、カラムクロマトグラフィーにより精製を行った。いくつかのキメラ酵素は精製の過程で活性が失われてしまったが、活性を有したまま精製された酵素1種についてKm値、Vmaxを求め、また詳細な基質特異性解析を行った。その結果、同様に大腸菌で発現、精製した4'-OMTに比べ、同等のKm値、Vmaxでありながら、より基質特異性の高い酵素であることが明らかとり、OMTの基質特異性の改変が可能であることを示した。 また、関連するアルカロイド生合成系のOMTの構造と機能について、さらなる知見を得るために、すでに単離されていたコロンバミンO-メチル化酵素遺伝子について組換え酵素を用い、その詳細な酵素化学的解析を行った。その結果、これまで本酵素の基質と考えられていたアルカロイド以外にも、同等の基質となりうるアルカロイドを見い出し、従来考えられていた生合成経路について再検討が必要であることを示した。
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